虹の女神

虹の女神―Rainbow Song (幻冬舎文庫)

虹の女神―Rainbow Song (幻冬舎文庫)

評価:☆☆☆☆★
感想:
2006年最後に読んだ本がコレ。映画にもなりましたね(まだ見てないけど)。
桜井亜美は割と好きな作家である。蔵書の中にも作品がいくつかある。ただ、作品をキャッチーにするため、読者に独特の読後感を残すため、もしくはそのほかの理由で徒に波乱含みの展開にする、旧世代からすればやや衝撃的な現代の若者の現実を織り交ぜる、エロの要素を入れ込む、などが見え隠れしてしまい、正直最近は遠ざかっていた。


本作の主人公は1組の男女。大学の映画サークルで知り合い、同じ会社で働く、とても仲がいいがつき合っているわけではないそんな二人、智也とあおいだ。自分の夢「映像作家になること」をひたむきに追いかけるあおいにいつも行き先を照らしてもらっていた智也。そんな二人を突然引き裂くあおいの飛行機事故、物語はそこから始まる。彼女の存在しない世界に現実感を感じられない智也は、過去への回想を繰り返し紡いで廃人同様に生きていくのだが、映画サークル仲間と学生時代に製作したあおいの遺作をみて、彼女の出したせつな過ぎる答え、その裏にある真の想いに気がつくのだが。。

こうやってあらすじを追いかけても、実際に読んでみても、ストーリー的にはそれほど奇をてらったものではない。むしろ桜井ファンの中には「もっとラストに衝撃の事実があったりしても良かったと思う」などのコメントがあるくらいだ。でも、私の中では評価が非常に高い作品になった。それはなぜか。

智也の、そしてそれ以上にあおいの恋愛の仕方が自分に似ているからだ。なので非常に共感し、身につまされながら読み進めた。 物語の最後のほうで、あおいが智也にビデオレターを遺していたことが判る。智也は一人でそれを見、生きていた頃をあおいと向き合うのだが、そのなかであおいがポツリポツリとはなす告白がとても切ない。でもその気持ちがとてもよくわかる。 ズルイ生き方かもしれないが、傷つくのを恐れると、大切なものを失わずに済むようにすると、そういう生き方になってしまうのかもしれない。でもこれでは何も手に入らない。

そんな訳で、2006年の最後にこの作品に出会えたことに感謝し、久々に良い作品を読ませてくれた作家に感謝したいとおもう。