ITの「2007年問題」唱えた真意は?

日経産業新聞にこんなインタビュー記事が出ていました。以下引用。

CSK取締役有賀貞一氏――ITの「2007年問題」唱えた真意は?(私が答えます)

システムの目的知る世代が退職
若手の技術先行不安
 団塊世代が大量退職し始める二〇〇七年から、情報システムの安定的な運用に問題が発生するという「二〇〇七年問題」。IT(情報技術)業界では以前から話題になっているが、実は誤解も多いという。提唱者であるCSKの有賀貞一取締役に真意を聞いた。
 ――二〇〇七年問題を提起した経緯は。
 「二〇〇三年の夏ごろ、仲の良い雑誌編集者と食事をしていたときに、団塊の世代七百万―八百万人が退職するとIT業界にも大きなインパクトがあるのでは、という話になった。ITに限らないが、技術がきちんと継承されずノウハウが散逸してしまう恐れがあるからだ」
 「ところがこの話がいくつかの雑誌で取り上げられていくうちに、勘違いをした若手の技術者と思われる人たちから批判的な意見が届くようになった。おおむねは時代遅れの古い技術しか知らない年寄りがいなくなっても、問題ないというたぐいのものだ」
 ――それは誤解だと。
 「批判を寄せた人はおそらく、Javaなどの新しいプログラム言語やオブジェクト指向などの開発手法を知らなければ今どき役に立たないと言いたいのだろう。だが、そういうことを問題にしたのではない」
 「それに、大型汎用機(メーンフレーム)で使われてきたコボルなどのプログラム言語をわかる人材がいなくなって、ソフトウエアの保守やバグの処理ができなくなるという話でもない。二〇〇〇年問題のように、対応しないとシステムが停止してしまうような問題でもない」
 ――では、問題の本質はどこにあると。
 「私が提起したのは、業務をきちんと把握して、システムに落とし込むことのできる人材が団塊世代の引退で不足するということだ。情報システムを一九七〇年代に導入した技術者は何もないところから手探りで開発を進めた。だから、技術的には今よりは劣っていたかもしれないが、業務の効率化というシステム導入の目的は見失っていなかった。団塊世代はそうした先人の下で働き指導を受けている」
 「ところが、八〇年代ごろから、まず導入ありきという風潮が出始めた。ユーザーもシステム構築会社も業務のどこをどのようにシステム化するということをきちんとしない。アルファベット三文字の新語を次々出して、それがさも重要かのように売り込むのはその骨頂だろう」
 ――団塊世代が退職するとどうなる。
 「業務をシステムに落とし込める人材がいないというのは、つまり世の中の動きについていけなくなるということだ。例えば郵政民営化ではシステムが問題になっていたが、そもそも業務と全体のシステムを熟知している人がいない。これでは環境変化に対応した商品や仕組みを導入しようとしても、システムが足かせになって企業の競争力が落ちる。それが問題なのだ」
 ――対応策は。
 「まずは団塊世代の雇用を延長して、その技術やノウハウを引き継ぐ人を育てる。若い技術者は最新技術だけではなく、業務知識を習得するべきだ。例えば統合基幹業務システム(ERP)を導入するなら最低限会計の知識はいる。退職する側も自分のノウハウを文書化する努力が必要だ」(聞き手は鈴木陽介)

 新連載「私が答えます」はIT業界の最新動向や底流の変化を各分野の専門家や論客に聞きます。=毎週火曜日に掲載
 あるが・ていいち 70年一橋大経卒、野村電子計算センター入社。88年合併で野村総合研究所に。システム開発畑を長く歩み、90年取締役、94年常務。97年CSK専務、00年代表取締役副社長。04年から現職。